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法学部とのかけ橋BRIDGE TO THE FACULITY OF LAW
法学部とのかけ橋
法学部長・法学研究科長からのごあいさつ
2020年00月00日
2024年3月 卒業生・修了生の門出を祝して 法学部長・法学研究科長2024年03月20日
卒業生・修了生へのはなむけと退任のごあいさつ
法学部長・法学研究科長 力久 昌幸
日頃より政法会のみなさまには、法学部・法学研究科に対して多大なご支援を賜り、心より感謝申し上げます。
3月20日に開催された2023年度秋学期卒業式・学位授与式におきまして、法学部からは709名の卒業生(そのうち早期卒業者は48名)が、そして法学研究科からは 博士課程(前期課程)において35名、博士課程(後期課程)において3名の修了生が新たな門出を迎えることになりました。なお、早期卒業者のうち25名は法曹養成プログラム(法曹コース)の修了者で、同志社大学の司法研究科をはじめとする法科大学院へ進学して法曹への道を歩むことになります。
さて、卒業生・修了生のみなさん、法学部卒業・法学研究科修了、おめでとうございます。2020年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大に伴う行動制限により、しばらくはオンライン授業が中心となるなど大学の様子も大きく変わりました。その後、感染状況が次第に改善したことで、大学のキャンパスにも以前の活気が戻ってきました。この間、みなさんが直面することになったコロナ禍に伴う大学生活のさまざまな制約を乗り越えて、見事に卒業あるいは修了されることを、心よりお祝い申し上げます。
みなさんが大学での生活に一区切りをつけて、社会の中に旅立って行く、このめでたい機会に、私からみなさんに一つお伝えしたいことがあります。
唐突ですが、みなさんは人生について考えたことがありますか。日々の生活に追われる私たちは、「どう生きるのか」という人生の本質的な問いについて考える余裕はないのかもしれません。私は人生の意味について、みなさんに胸を張ってお伝えできるような答えを持っていませんが、みなさん自身が答えを見つけるうえで、ある女性の言葉が手がかりになると思います。
みなさんは京都の大原に住んでいたベニシア・スタンリー・スミスというイギリス人の女性を知っていますか。大原の人から「ベニシアさん」と親しみを込めて呼ばれていた彼女は、残念ながら病気のため2023年6月に亡くなりました。ベニシアさんの70年あまりの人生は、波瀾万丈と言っても過言ではないものでしたが、その中で私たち人生の後輩に対して貴重な言葉を残してくれました。
ベニシアさんは、イギリスの外務大臣とインド総督を務めた名門貴族カーゾン卿の屋敷で生まれたお嬢様でしたが、再婚を繰り返す母親のために、子供時代は引っ越し続きで、友達がなかなかできずに寂しい思いをしたようです。しかし、裕福な男性に依存していた母親とは違う生き方を求めて、ベニシアさんは19歳の時にイギリスを離れ、しばらくインドで生活していたのですが、その後、日本にやってくることになりました。日本で暮らす間に日本人男性と結婚して子供もできるのですが、離婚を経験して、京都で英会話学校を開くことになります。そして、いまから30年ほど前に自然豊かな大原の古民家に引っ越したことがきっかけとなり、自宅の庭でハーブを栽培するとともに、ハーブを使った手作りの暮らしや自然と共生する生き方が雑誌やテレビで紹介されたことで、注目を集めるようになりました。
ベニシアさんによると、私たちの人生に共通する点として、次の二つがあるそうです。一つは、私たちを取り巻く状況は常に変化していくということ。そしてもう一つは、私たちには常に満たされたいという思いがあること。先ほど紹介したように、若い頃からベニシアさんにはたくさんの変化が起こったのですが、時には身の回りで起こったことが、本当に自分のためになっているのか、と疑問に思ったこともあったようです。しかし、一見マイナスに見えるような変化であっても、後から振り返ってみると、そのどれもが新しいことを教えてくれたとベニシアさんは語っています。言い換えると、一つの扉が閉ざされたとき、もう一つ別の扉が開かれていたのだ、ということに気づき、そうした一つ一つの変化から学んだことが、ベニシアさんを一歩ずつ前進させてきたと言っています。
私たちが人生の中で直面する困難について、ベニシアさんはガーデニングの経験をもとに、次のようなことを言っています。
「ある朝起きたら、庭の一部が台風で荒らされていることがあるかもしれません。それも自然の一部なのです。だから、気を落とさないで。私たちの庭を、そして人生を、より美しく立て直す機会なのですから」。
このようにベニシアさんは、台風によって壊れた庭も、そもそも自然の一部なのだと捉えて、あるがままに受け入れます。そして、台風で壊れる前の庭ではなく、壊れた現在の庭を出発点として、それに手を加えてより美しくすることができることに喜びを見いだすのです。
私たちの人生の中で、予期せぬ困難な事態は常に起こり得ます。みなさんもこれまでに、そうした事態をいくつも経験してきたのかもしれません。ただ、困難な事態に直面した際に、どうするのかということは私たち次第です。我が身に降りかかった不幸を嘆くのではなく、まずはあるがままに受け入れて、そこからその事態をどう活かすのか、という前向きな態度を持って対処することができれば、私たちの人生は豊かで実りあるものになっていくのではないでしょうか。
ベニシアさんは、「この美しい緑の世界で、私たちが過ごす時間はほんのわずか。人生は永遠ではないのです」と言っています。
私たちに与えられた限られた時間の中で、どうすれば豊かで実りある人生を送ることができるのか。これからみなさんは、法学部や法学研究科で身につけた知識と能力をもとに、さまざまな分野で活躍することになると思いますが、予期せぬ困難な事態に直面することも少なくないはずです。その際、ベニシアさんの言葉を思い出して、人生をより美しく立て直す機会として前向きに捉えていただくと、私としてはたいへんうれしく思います。
ところで、私は2023年度末に法学部長・法学研究科長を退任いたします。法学部長・法学研究科長を務めた2年間は、「力久」というたいそうな名前とは裏腹に非力な私にとって、決して楽な時間ではありませんでした。しかし、振り返ってみて苦労ばかりだったかといえば、そうではありません。なぜなら、私の下の名前「昌幸」を見てみますと、「日」という字を二つ重ねた「昌」という字に「幸」という字で構成されているため、「日々幸せ」と読むことができるのですが、この2年間にさまざまな場面で、先生方や事務室のみなさん、学部生や大学院生、そして、忘れてはいけない政法会で活動している卒業生のみなさまから多くのご支援をいただき、まさに「日々幸せ」であったと思っているからです。なお、特に幸せな思い出として、政法会の総会や支部総会の場で多くの卒業生のみなさまと交流する機会をいただいたことがあります。社会のさまざまな分野で活躍され、法学部・法学研究科に対して惜しみない支援を行っていただいている卒業生のみなさまとお会いすることができたのは、私にとってとても貴重な経験となりました。
それでは、政法会のますますの発展を祈念いたしますとともに、法学部卒業生・法学研究科修了生のみなさんの新たな旅立ちを心よりお祝い申し上げて、私からのごあいさつとさせていただきます。