同志社大学政法会 updated 2018-11-15

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吉田善之(昭和31年卒業)さんからのご投稿

「AIとIoTの資本主義」

吉田 善之(昭和31年卒)

 資本主義は第一次産業革命以降刻々と変貌し続けています。オーストリアの経済学者シュンペーターは「創造的破壊」の必要性を唱えました。それは時代遅れの企業や競争に負けた企業、古い技術や非効率的な流通体制が次々と刷新され、そのたびに著しい成長を目標とした新しい成長パターンが描かれる循環を意味しており、その原動力となるのが刷新(イノベーション)であります。

 それは商品を改善するというよりは、商品そのもの、あるいはそれを作り出す資源や生産組織そのものを、新たな結合や革新的な手法で一新してしまうことにあると思います。
 このイノベーションはよいことばかりではなく、倒産・失業などの痛みも伴います。兄が指摘されたワーキングプアの大部分の人たちは、このような原因によるものではないでしょうか。しかしこの人たちもやがては新しい分野での産業や生産性の上がる企業に再就職することになります。このように創造と破壊を繰り返すことによって、資本主義は豊かになるものと考えていました。
 しかし最近急速に台頭してきたAIやIoTがこれからの資本主義において、はたして人間の仕事をこれまでのように充分に与えてくれるかどうか疑問に思っています。
 そもそもAIの開発は1950年ごろから「人間の知能はコンピューターで再現できる」という仮説から始まりました。人間の脳は一種の電気回路の集合体であり、電気信号が行ったり来たりすることで情報処理を行うため、理論的にはコンピューターで再現可能であり、再現してみよう、というのが研究の始まりです。
 2017年7月22日の読売新聞で、長年コンピューター研究に取り組んでこられた大阪大学長の西尾章治郎氏が、AIについてとても解りやすく述べておられましたので、ご紹介いたします。
 AI(Artificial intelligence)とは人間の脳の作業をコンピューターとソフトウェアで実現する技術である。人間がソフトに指示を出すと、それに従ってコンピューターは膨大なデータを使って高速で計算し答えを出す。さらにコンピューター自身が人間の脳のメカニズムを模倣したディープラーニング(深層学習)を使って自分で学んで答えを出すこともできる。ソフトの指示どおり何段階も計算を繰り返すうちに、コンピューターは規則性を学び、ソフトの指示とは別に自らの判断基準を作って答えを出すようになる。今AIが注目されるのは、それを可能にする技術が整ったからである。米企業の調査によると、2013年の世界データ量は約4.4兆ギガバイトだった。1ギガバイトは書籍1000冊ほどの情報量に相当するが、2020年には44兆ギガバイトになると予想されている。
128ギガバイトのデータを保存できる厚さ7ミリのタブレット型端末を重ねるとすると、2013年は地球から月までの距離の3分の1であるといわれている。それが2020年には6倍となるのだから、すごい量であることは想像できる。コンピューターの処理能力についても、1年半ごとに倍の処理能力となっている。その上に関連機器の価格もどんどん安くなっているので、膨大なデータと高速計算機を使えば、人間の脳のような働きが期待できるといわれている。発展の状況次第では、人間より生産性が高くなるので、AIは人間の職業を奪うと恐れられているのである。
しかしAIにはブラックボックスという大きな問題がある。それはAIがなぜそのような答えを出したのか人間が検証できないことである。AIは予想外の答えを出すこともある。それは正しいかもしれないし、間違っているかもしれない。人間が追い付けない、理解できていないだけでAIは正解を出しているかもしれないというブラックボックスの問題がある。
いま一つは、AIは単体で存在するだけでなく、やがてはインターネットでつながり世界規模で社会に影響を及ぼすようになる。そこで、日本は先進7か国(G7)情報通信相会合でAIの国際指針作りを提案し、次のような指針を発表している。
1.AIが下した判断の結果を説明できること
2.AIを制御できること
開発者へは留意を求め、今後国内外で合意形成を図ることになった。人間の安全からするとこの2項目は絶対に必要と思われるが、強制力は外された。理由は、その解明のためには多くの時間と経費が必要となり、研究者や企業が委縮しAIの開発を阻む恐れがあること、また知的財産や企業秘密の保護の調整にも時間を要する、と西尾氏はAIの概要について以上のように述べられておられました。
 では、AIが主導する産業革命ではいったい何が起こるのでしょうか。英国オックスフォード大学のオズボーン氏らは2013年に公表した研究で「AIと雇用」の関係について、米国の労働人口の47%の職業が技術的に代替可能であると述べています。三菱総合研究所の試算では、我が国のAIによる代替雇用は740万人の削減が可能とした一方で、新たな雇用が500万人創出されるとしています。職種の転換がうまく進めば、技術的失業は240万人ですみますが、タイムラグがあるのでどう対処するかは早期に考えておく必要があります。
 特に日本の中間層であるホワイトカラー(事務部門)の多くは生産性が低いと言われていますので、AIにとってかわられる可能性が高いと思われます。AIがあらゆる仕事を担うようになれば人間は辛い労働から解放されますが、同時に生活の糧を失うことになります。
 2017年1月からフィンランドでは、ベーシック・インカム(最低生活保障)の実証実験がはじまり、AIの普及がもたらす失業などに備えた社会保障の手段として注目されています。
 さらにAIとともに発展した技術がIoT(Internet Of Things)であります。そもそもインターネットは1995年にマイクロソフトから発売された「Windows95」により、ITの知識が乏しくても簡単にパソコンを通じてインターネットを利用することができるようになりました。情報の入手発言、コミュニケーション、買い物といった様々な行動はインターネットの普及により、電気、ガス、水道と同じように「社会のインフラ」となりました。このインターネットが進化する原因となったのは、一つはネットを利用するための端末(デバイス)が普及したこと、二つ目は通信網が充実したことです。初めのころは文字しか使えなかった映像は、今や画像、ボイス、そして動画を送受信できるようになったのです。
 こうした整備がインターネットを通じてモノとモノが通信しあうコンセプトにつながり、IoTを大きく発展させた要因になったと思います。
 人を介せずモノ同士が自動でやりとりをする技術IoTは、様々な業種や業界で新たなサービスを生むチャンスをもたらしました。そして、これまでにない新しい価値が生まれ、そのニーズを満たすためにさらに多くの民間企業が参入しています。日本は産官学が連携して「世界最高水準のIT利用を通じた、安心・安全・快適な国民生活を実現する」という目標を立てIoTを推進していますが、新しいビジネス、サービスが生まれる一方でIoTによって衰退する仕事も出てきます。機械的で単純な仕事や知識だけを売り物にしているサービスやビジネスなどは、コンピューターやシステムのほうがコストが安くて高品質なものができると予想されています。
 AIおよびIoTがもたらす第四次産業革命の未来は、人間の仕事が競争力を失い機械にとってかわられる時代を予想しなければならないかもしれません。
 AIとIoTの進展は私たちの経済体制、社会構造にどう影響するのか全く想像がつきません。そこでAIの研究者や第四次産業革命の未来を予測されたジャーナリストや経済学者の示唆に富んだ言葉を紹介してAIとIoTの社会を想像していただければと思います。

 ハーバード・ビジネス論文集 レイック・ブルニヨルフソン氏(マサチューセッツ大学教授)
「機械は我々を幸福にするのか」
 確信をもって予測できるのは、デジタル技術のおかげで世界はもっと豊かで裕福になり、人々は単調な仕事や辛い重労働から解放されるということです。しかし全員がその恩恵にあずかるとは限りません。多くの人は不安になりますが、繁栄が共有されるか、それとも格差が広がるか、その結果を決めるのはテクノロジーではなく私たち個人や組織、社会が決める選択です。その未来の選択を誤り、多くの人々を繁栄というサイクルから締め出している経済や社会を作るようでは、私たちは自らを恥じるべきです。技術の進歩は途方もなく強い力ですが、決して運命ではありません。要は私たち人間次第で、テクノロジーは道具なのです。

「欲望の資本主義」  スコット・スタンフォード氏(セエルパ・キャピタルCEO)
 今起こっている経済が人間の労働力を基本としているシステムから、機械化によって高度に自動化されるシステムへと根本的に変化していく過程で、資本主義の有効性が問われる時が必ずやってくると思います。どうなるかわかりません。私たちはオープンマインドでなければならないと思います。経済の基盤を評価する伝統的な方法に固持してはいけません。成功を表す指標として雇用率や生産性を見ているだけでは駄目だと思います。失業率が30~40%近くなる日がくるかもしれません。そして、それはそういうもので、悪いことではないと多くの人が考える時が必ずやってきます。ですが今の労働人口の半分が働いていないと、今とは異なった社会のシステムが必要になります。答えは解りませんが、社会主義だとは思いません。これまでいろいろなシステムが試されてきましたが、新しいシステムはそのハイブリットになるのではと思います。

「隷属なき道」  ルトガー・ブレグマン氏(ジャーナリスト)
 人間の運命をきめるのは私たち人間である。アメリカで具現化しつつある極端な不平等は私たちの選択肢ではない。私たちの今一つの選択肢は今世紀のどこかの時点で、生きていくためには働かなくてはいけないというドグマを捨てることだ。社会が経済的に豊かになればなるほど、労働市場における富の分配はうまくいかなくなる。テクノロジーの恩恵を手放したくないのであれば、残る選択肢はただ一つ、再分配である。金銭(ベーシックインカム)、時間(労働時間の短縮)、課税(労働忍耐してではなく資本に対して)を再分配し、もちろんロボットも再分配する。という大胆な発想が必要だ。

「資本主義に希望はある」   フィリップ・コトラー氏(ノースウェスタン大学教授)
 所得の再配分は民主主義的な社会を維持するため、一定の役割を果たしてきた。アメリカの改革およびフランスの革命の原動力になったのは、社会の全構成員が等しく政治・経済的権利をもつ「平等な人々の社会」を生み出そうという思想であった。所得再分配は、資本主義と民主主義の恩恵を受ける市民の数を増やし、抗議行動や不満の声を革命ではなく進化へ導くものだ。不平等への流れをどう押しとどめるのかの手段である。

 最後に読売新聞2017年8月11日の「現状打破には技術革新」と書かれた要旨をご紹介して終わりにします。
 2016年の日本の一人あたりのGDPは3万8917ドル(約428万円)シンガポールより3割少ない。サービス産業の生産性の低さ、流動性に欠ける雇用市場、IT人材の不足など課題は山積みだ。世界で最も早いスピードで高齢化が進む日本が人工知能や先端技術を活用した社会構造にどう変えていくかが大事である。実質1%成長は簡単ではないと認識し、具体策を急ぐ必要がある。

 憲法25条(すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。②国は,すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。)が名実ともに活用される時は意外に近いのかもしれませんね。

                                    以上